愛のままにわがままにボクはキミだけを傷つけたい  2


「我は絶対に行かぬ! どうしてもと言うなれば令呪を使うのだな!」
久々に教会に戻ってきたランサーは、ギルガメッシュの怒声にあやうく吹き飛ばされるところだった。もっとも、常軌を逸した怒鳴り声を向けていたのはランサーとギルガメッシュ共通の主であったわけなのだが。
「……」
当の本人である言峰はというと、ちらりと視線を向けただけで、あとは手元にある文章に注意をやっていた。英雄王の怒りなぞ何処吹く風、といった様子である。そんな態度が更に彼の気に障ったらしい。
「おのれ…勝手にするがいいわ!」
恐ろしいスピードで教会を出て行ったギルガメッシュの残像を見ながら、
「今度は一体なんだってんだよ…」
ランサーは途方に暮れたように呟いた。そんなランサーのぼやきが耳に入ったのだろう、言峰は、
「なに、聖堂教会の慰安旅行に連れて行ってやると言っただけだ」
端から聞いていると何でもないようなコトだ。が、この2人目のマスターがどんな人間かを考えると、何でもない、と言える確証がない。ここに来て日の浅い自分ですらそうなのだから、10年間も主従関係にあるギルガメッシュには余計に危険が感じられるのだろう。しかし、
「…慰安旅行って何だよ?」
ランサーにとっては聞いたことのない言葉の方が気になって仕方がなかった。
「簡単に言えば『お疲れ様でした、ちょっとばかし羽目を外しに行きましょう』という旅行のことだな」
当たらずとも遠からずだが、言峰のセリフからは二重にも三重にも皮肉が含まれているように感じられる。
「羽目外し……夜を徹しての宴会とかか?」
「それは羽目外しの一部にもならんな。今年の羽目外しは『豪華・子作りツアー』だそうだ」

子作りツアー。

 脈絡もなく出てきた言葉にランサーはツッコミを入れる余地がない。
「…………」
「できれば『日本人大挙ツアー・三国志の旅』の方がよかったのだが」
 それはそうだろう、必然的に四川が入るのだ。
 なんといっても四川にはアレがある。
「ふ、ふーん…けど、お疲れ様も何も、お前日曜の午前中以外働いてないだろ」
 日曜日の午前中だけでも働いているのか、と凛や士郎が知ったらさぞかし驚くことだろう。
「ははは、そんなことはない。この間もオルガンの鍵盤の具合が悪かったのを……」
「それはオレがやった」
「聖堂前の広場の枯草の……」
「見苦しかったから裏庭で燃やしたぞ」
「…………」
「…………」

 …………。

「……そうか、よく働いているようで何よりだ」
「……そりゃ、どーも」

 …………。

 もとよりこの2人に信頼関係なぞ存在していないのだから、白々しい会話になることは目に見えている。息苦しい沈黙が続く中で、文書を読み終えたらしい言峰は顔をあげるとランサーを一瞥して次の文書を手に取った。
「慰労の意味を込めて、お前が行くか?」
「は? 別に子作りするほどヒマ持て余してねえよ。こちとらこき使われている身分なものでね」
 言ってもムダだと分かってはいるが、ランサーの言葉にはどうも刺々しさが混ざる。
「だが食餌は必要だろう。適度な栄養と睡眠がなければ現界には力がもつまい」
「……さっさとテメェが魔力回路繋げりゃ済むことだろうさ」
 不服従、とまではいかないが何かと反抗的な態度を見せるランサーへの魔力回路を、言峰は一時的に断ち切っていた。いわば兵糧攻めである。
「反抗的なのも面白いがな、そろそろある程度は懐いてもらわないと困る。……ふむ、そうか…身体を繋げるという方法もあったな。知っているか、ランサー。昔、女郎屋に売られてきた娘を従順にするために3日3晩、一つ所に閉じ込めて身体を慣らしたそうだ」
 身体を慣らす、の意味するところを正確に理解できるランサーではあったが、まさかその対象が自分になるというところまでは考えが及ばなかった。が、
「! な、何を……」
 いきなり右手首を掴まれては現実のものとして受け止める以外になかった。
「………ちっ」
 渾身の力を込めて振り払おうとしたランサーだったが、意外にもあっさりと言峰は手を離した。
「さて、それでは選んでもらおうか。私と身体を繋げるか、『子作りツアー』に参加するか……?」
「ケッ! 後のに決まってんだろ、後のに!! 誰が……」
 さらに1歩後退して自分の身体を抱きしめるランサー。そんなランサーの姿を愉しそうに眺めつつ、言峰は勿体ぶった口調で言葉を紡ぐ。
「いいのか? 詳しい内容を話していないのだが……」
「いい! うあああ〜考えるだけで鳥肌が立つ! 子作りツアーだろうと麻婆食べ放題だろうと行く!」


「キーセンツアーの後に犬鍋を囲むのだが、いいのか?」
「い゛……!」

また犬鍋か! と、ランサーは心のどこかで叫んではみたものの、状況が変わるわけでもなく。
「さて、今一度聞こうかランサー……いやクーフーリン。私と身体を繋ぐか、それとも犬鍋をつついて生前と同じ業を背負うか……? 選びたまえ」
 金縛り状態のランサーの肩を抱き寄せながら、優しくやさしく―――さながら愛を語らっているかのように―――言峰はもう1度訊く。


「さあ、選びたまえ」


・END・





……なんつーか、書いてて愉しかった…じゃなくて楽しかったです。
韓国での食用犬問題は、日韓共催ワールドカップでも話題になりましたね。某チームのキャプテン(だったと思う)が「犬を食べるような野蛮な国で行われる大会には出場しない!」とか言って。名前が「オ」で始まる人だったのでアイルランド系かなー、兄貴の物語とか聞いて育った人なのかなー、と思ってたのですが、ゼンゼン関係なかった(笑)。


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